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Interview - Mari AZUMAProject
December.2010

#02

  

 
 
ヘアメイク今昔物語

 
我妻マリ:そうそう、当時はメイクもセルフメイクだったんですよ。
 

アンジェラ:えっ?!メイクまで!

 
我妻マリ:そうです。誰も教えてくれないから、自分で技を磨くしかなかったんですよね。でも逆に面白かった!

すでにVOGUEなどのファッション誌もありましたから、それを見てヘアメイクの研究もしました。

 
NAOKI:当時はメイクブランドや化粧品自体も少なかったのでは?

 
我妻マリ:主なブランドと言ったら、資生堂とマックスファクターくらいかしら。

今ほど技術も発達していないので、とにかくシンプルでしたよね。
 

NAOKI:では様々な時代と歴史を見る中で、ヘアメイクのやり方や考え方はどのように変わってきていますか?

 
我妻マリ:今はやはり、皮膚感や素肌感に重点を置いてますよね。仕上がりが軽いんです。

昔はファンデーションにしてもアイメイクにしても、どうしても重くなってしまっていた。

これは、お化粧品の品質的な問題かもしれませんが。ただ、ひとつ言えることは、昔に比べて今のほうが洋服も軽くなっているということ。

昔はコートもジャケットもしっかりと織っていましたから、とにかく見た目にも重みがあったんですね。

となると当然、重いメイクが好まれる。つまり、昔と今の最大の違いは"重さ"と"軽さ"ということになるでしょうね。
 

アンジェラ:それに関してはどのようにご覧になりますか?

 
我妻マリ:私はとても素晴らしいと思っているの。

 
NAOKI:どのような点が?

 
我妻マリ:洋服はもちろんヘアメイクも、オートクチュールのテクニックが脈々と受け継がれている先に、

今が在ると思うんです。PRADAにせよGUCCIにせよ、オートクチュールを研究していることがまずベースにある。

オートクチュールのポジションは、実は今のためにあるといっても過言ではないと思うのよ。

それがパターン化されているからこそ、軸もぶれない。これはプレタ(注:プレタポルテ)にも同じことが言えますね。
 

NAOKI:実は時代が一連に繋がっているという確固たる証拠でもありますよね。

 
我妻マリ:そうです。軸がぶれないベースがある上で新しい要素を取り入れているので、

今、洋服もヘアメイクもとても良くなっていると感じますよ。
 

アンジェラ:突然今の形になったのではなくて、過去があるからこその現在。

そう思うと未来がどのようになるかも楽しみですね。
 

NAOKI:そうだね。我妻さんは現在もモデルとしてご活躍されていますが、

今の、日本のヘアメイクアップアーティストはどのように評価されますか?
 

我妻マリ:う~ん。まず、今の若いアーティストたちは、私がどんな仕事をしてきたかを知らない人が多い。

コンポジット(注:宣材写真)を見たイメージだけで打ち合わせをし、結果的にどのアーティストが造っても似たよう

なメイクになってしまうのが現実ですね。

そのアーティストの個性でちょっとでも変えてくれればいいのにって。歯痒い気持ちになることがあります。
 

アンジェラ:本来、例えばアイラインの入れ方ひとつでも、アーティストの個性が表れるハズですよね。
 

我妻マリ:まさにその通り。悲しいことに、今は全部同じにすることが正解になっている。

これは日本人ならではの発想なのかしらね? “右向け右”の安心感というか‥。

でも、私は、ファッションはそういうことではないと思っているのよ。もっと個性を前に出すべき!
 

NAOKI:オリジナリティーがなければアーティストである意味が無い。

 
我妻マリ:この大切な事に気が付けていない人がいるということは、ちょっと悲しい現実でもあるわよね。

 
NAOKI:クリエイターにとって、自己研究こそがひとつのテーマでもありますね。考え続け、考え抜くことが大切だ。
 

 
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“バンッ!”となる瞬間

 
NAOKI:とりわけファッションが面白かった70年代80年代。我妻さんは世界を股にかけて様々な媒体で

ご活躍されていたわけですが、そんな中でモデルとして感動したこととはどんな時でしょうか?
 

我妻マリ:本能的に、すごくいい写真が撮れたとわかる瞬間ですよね。これこそがモデルの醍醐味ですし、

心だけでなく体としても忘れられない感動です。

 
アンジェラ:すごくよくわかります。

 
我妻マリ:想像以上に素晴らしい世界観が生まれるときの快感といったら、どんな喜びにも代えられないですね。

 
アンジェラ:では、世界的なショーのお仕事ではいかがですか?

 
我妻マリ:…これが、とても難しいの(笑)

 
NAOKI:難しいというのは、どういった点で?

 
我妻マリ:ショーという現場は、自分以外の様々な要素から成り立っていますよね。

例えばライティングだったり、演出だったり、音楽だったり。
 

NAOKI:総合的な空間ですね。

 
我妻マリ:その通り。つまり、自分一人だけの世界観ではないんです。ですから色々な意味で毎回ドキドキですよね。

 
アンジェラ:今まで、自分の中で獲得した点数はどれくらいでしょうか?

 
我妻マリ:パーフェクトな100点を自分にあげたことは無いわね(笑)それぐらい、

“バンッ”と一瞬にして納得がいくものができることはなかなか無い現場です。
 

NAOKI :そんな中でも“バンッ”となったご経験は?

 
我妻マリ:…。あれはISSEY MIYAKEのパリコレだった。

(同じくトップモデルの)山口小夜子さんと出演したんですけれど。宇宙にいるような感じだったんですよ。

一種のトランス状態というか。自分が動いていることすらわからなくなるような不思議な感覚でした。

本来ショーって、頭が冴えていなければならないんですよね。後ろから来るモデルやすれ違うモデルはもちろん、

色々な意味で与えられた空間の全てを冷静に見なければならない。しかしそのISSEYでのショーは何かが違った。

多くの経験をしていますが、そう感じられたのはたったの1回ですね。
 

アンジェラ:たったの1回だけ?!
 

我妻マリ:ええ。本当に珍しいことなんですよ。
 

NAOKI:他に、向こうのショーでのエピソードはありますか?
 

我妻マリ:今はそんなことないのかもしれないけれど、当時はデザイナーがひとりひとりのモデルと対話をしなが

らショーで着る洋服を決めていたの。このデザインはあなたらしくないとか、時にはそのモデルをイメージして新

たに洋服をデザインすることもあった。
 

アンジェラ:今はそういうことはほとんどないですね。
 

我妻マリ:でも、そうやって自分のことを理解しようと努めてくれたり、生かそうとしてくれると、

モデルとしても励みになるし彼らのために尽くす気持ちになる。結果的に全てがプラスのエネルギーになるんですよね。
 

アンジェラ:ではスチールの撮影をする過程の中で、そのような気持ちになることはありますか?
 

我妻マリ:なかなか難しいですね。というのも撮影って、無理している部分があるじゃない?

 例えば(より形を美しく見せるために)洋服をピンで留められていて身動きができなかったりとか、

長時間メイクをしていると表情も重たくなってきますよね。そうすると、無意識にもフラストレーションが溜まっていく。
 

NAOKI :モデルは、涼しい顔の裏で実はストレス的要素もたくさん抱えているんですよね。

 
我妻マリ:でもそこから解放される瞬間があるんです。精神的に自由になるというか。

 
アンジェラ:気持ちが一線を越えるんですね。

 
我妻マリ:そういったときに、フォトグラファーとの息がぴったりとシンクロしたら、最高に気持ちがいい。

 
NAOKI:でも、フォトグラファーとの間にズレが生じることも‥。

 
我妻マリ/アンジェラ同時に:ありますね!

 
NAOKI :はははは(笑)

 
我妻マリ:今、自分すごくいいのに、どうしてこのフォトグラファーは、この瞬間にシャッターを押さないんだろう?って。
 

アンジェラ:あれ?私のタイミングは今なんだけど。押してよ!って(笑)
 

我妻マリ:そのタイミングがズレると本当に気持ちが悪いわよね。もちろん人間の感性の問題ですからしょうがないのだけれど…。
 

NAOKI :なるほどね。

 
我妻マリ:あと、自分だけの世界観を押し付けるフォトグラファーもいる。それが一番苦しいかしらね。

 
アンジェラ:新しいハプニングを取り入れる試みをしないというか。

 
我妻マリ:自由でいて欲しいと思うのに、今回の世界感はコレだっていうことしか頭にないのはモデルとして辛いわよね。

とは言っても、それをも超越した、突き抜けちゃっているフォトグラファーはいいんですよ。

むしろ、その人の世界感を自分が表現できた時に最高の喜びと感動が待っているのです。一緒に作品を作れて幸せだわって。

 
NAOKI:それは、フォトグラファーとしての喜びでもあります。

 
我妻マリ:つまり全員にとっての感動ですね。“バンッ!”って(笑)

 
アンジェラ:この上ない幸せです!

 
我妻マリ:そういえば、昔は1日に1カットだけしか撮らないこともあったのよ。

フォトグラファー、モデル、スタイリスト、ヘアメイク‥。全員が1カットだけに集中し、

とことんひとつの世界観を作り込むことがあった。今では考えられないことですね(笑)

 
 
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